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パタパタパタッ
懸命な足音。その音だけで小柄とわかるその人物は、他の幾つも荒々しい足音たちに、追われていた。
後ろを振り返る余裕もなく、ひたすら夜の闇を走る。
場所が場所ならばまだ明るい道はある時間帯だったが、逃げ惑うその姿はどんどんと街の灯りからは離れていく。
月明かりだけが照らすそこは、うず高くコンテナの積まれた倉庫。
さて、もうバレるかな?
その内の一つのコンテナの屋根で待機しながらそんなことを思う。
追われる者と追う者たちの足音は、もう自分の真下まで来ていた。
「…………………」
小柄な足音がそこでぴたりと止まる。それに合わせて追跡者たちも足を止めた。
「チッ、てこずらせやがって…」
ターゲットが逃げ疲れたと判断したのか、ゆっくりと近付いていく黒服の男たち。
その手が、触れる瞬間に、小柄な女性だと思っていたターゲットが、強く地面を蹴った。
大胆で力強い跳躍。
そして次の瞬間には俺は女性と入れ替わるように降り立っていた。
「?!」
黒服たちが戸惑うよりも、何か理解するよりも早く、事は決まった。
手前の男の首筋に俺のナイフが、左の男のこめかみに俺と同様コンテナの上で待機していた奴の鉛玉が、一番後ろの男には、奴らに気配を悟られずに接近していた奴が背中から絞め殺した。
「あのね、こんな人気のないとこに普通人は逃げ込まないよ?」
俺は死体となった塊にため息をつく。
「ましてや、財閥のご令嬢が、あんな上手く逃げるはずないでしょ」
その言葉に応えるように、先程の小柄な女性が姿を現す。
「………納得いかない」
不機嫌そうに呟かれた声は、女性のものよりも多少低い。
「なんで俺が、こんなカッコ…」
文句を言いながら自らの栗毛のロングヘアをつかみ、ずる、と外す。その下からは艶やかな黒髪。視線は鋭く俺を睨んでいた。
「いやだから、それはお前が…」
女装に適したサイズだから。恐らく怒らせるだろう台詞を俺が口にしようとした時、
「それはかぐやちゃんが可愛いからだよ!!」
バキッ。
先程人を絞め殺したばかりの奴が堂々と言い張り、おもいっきり殴られる。
バカだな、あいつは。
俺は気を付けよう。
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