15話

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「そんな考えじゃ、いつか足元掬われるよ?」 「構わない。掬われたとしてもそっからぶちのめす実力はあるつもりだ」 「ふふっ、僕、君のそういうところは好きだなぁ」 一頻り笑っていた春日井は、瞬きを1つする間に表情を戻す。 その様子が余りにも雪羽のよくする動作に似すぎて、俺は何も言えなくなった。 雪羽と春日井の共通点は1つ。 ならば、2人の行動の意味なんて考えなくとも把握できる。 「…っ、」 込み上げた感情を抑えつけるように、俺は一度だけ息を吐いて、春日井のせんとする話を促した。 「──まず、極論から。雪羽の敵は春日井賢治だけではなく、如月財閥そのものになる可能性がある」 「な゙…っ!?」 「知っている通り、如月財閥は事業を大まかに2つに分けているんだ。 1つは輸出入を主とした、世界レベルの事業。これで何度か雪羽は親父と共に海外へ飛んでいる。 そしてもう1つは、国内を主流とした事業。桜宮学園の経営もこれらにあたる」 「それは有名な話だな…。 部で分けるのなら兎も角、営業形態も金の回し方も全く違う。 元締が一緒なだけという最早全く別の企業だ。 俺も各契約を結んでいる」 「そう、そして如月一樹は後者の事業を一任されている。 元締兼前者の事業は雪羽の祖父、如月厳春[ゲンシュン]がずっと行っているね」 如月財閥がこのスタイルをとったのは、最近のことだ。 時間的には雪羽が産まれて数年後。 思いも寄らなかった斬新なスタイルに俺の親父もいっぱい食わされたと笑っていた。 確か他の企業も目を丸くしていたはずだ。 「そこで、君の知らない事実を1つ。 厳春の後任となるはずだったのは、春日井賢治さ」 「!…つまり、如月理事が事業を二分したのは海外事業を春日井に、国内事業を如月一樹に任せる為だったのか…?!」 「イエス。 幸い2人とも経営者向きの思考、実力を得ていたし、得意分野も分かれていたからね。 そして厳春にとっては、それが雪菜との愚行を許す方法だった」 「愚行…?」 「2人の結婚は駆け落ち同然だったんだよ。 挙げ句婚前妊娠だからね。でも厳春は知ったんだ、賢治のスペックを」 「───、」 確かに、春日井賢治は、尋常じゃなかった。 .
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