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額が、鼓動に合わせて滲むように痛んでいた。
古傷に重ねて裂かれた鼻筋からは血が流れ、視界の端を赤く染めていく。
体中そこかしこから襲ってくる、斬りつけられ肉を割かれた感覚に、自らが事切れるのは間もなくであると、藤堂は既に悟っていた。
長い間、その剣を間近で見てきたのだ。
彼らが本気で人を殺しに来たらどうなるか、分からないほど馬鹿ではない。
不意打ちで下手な者に斬られるより良かった、とも言うべきか。
目に血が入る痛みさえ、比べものにならない刀傷の疼きで分からなくなってしまって、ゆっくりと瞼を下ろそうとした。
もはや闇色の空ばかりが広がり、同志の姿も、同志だった者の姿も見えなくなっていた。
すると突如その視界の端に、ふわりと紛れ込んできたものがある。
その姿は霞んでいて確かではなかったが、男の閉じかけた瞳が柔らかく緩んだ。
夕、とその名を呼ぼうとする。
しかし乾ききった唇は動いてはくれず、僅かな吐息だけが寒空を白く焼いた。
それに応えて、女が傍らに膝をついたように見えた。
体は草むらに投げ出され、愛刀も手放してしまった藤堂の硬い掌を、慈しむように持ち上げる。
滑らかで白い小さな手は、冬の空気よりも遥かに冷たかった。
一体いつから、何処から様子を見ていたのだろう。
こんな場所にいるはずもない彼女が、何故。
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