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もちろんその少女は自分の名前が呼ばれても鳥の数をまた数えなおしている。
そして、ここからが俺と違う。
後ろの席の女子に背中を叩かれても、気がつきもせずにまだ外を見ながら小首をかしげているのだ。
俺が声を出して教えてあげるには席が遠すぎる。
携帯にメールでも送ってやろうと思ったが、さすに慣れた教師も少女の席の横まで歩いてきて、苦笑いと共にその机に答案を置いた。
その時になりようやく先生に気がついた少女は、肩で切りそろえられた黒髪をなびかせて振り返り、その大きな瞳を向けた。
「・・・もうちょっと頑張ってくれよ」
そう言った教師の表情は、本当に勉強が苦手な子に向けられる物ではなく、やれば出来るのにどうしてやらないんだ、と言うような顔に見えた。
少女は答案を見て「あっ」と口を開けたかと思うと、俺の顔を見て照れ笑いを浮かべた。
[キーンコーンカーンコーン]
匠の仕事か、授業が終わるチャイムと同時に全ての生徒にテストを返却すると、先生は教室から出て行った。
俺は机の上にあるものを乱雑にカバンに詰めると、その目の大きな少女の下へ行く。
「柚子、帰るぞ」
少女は目を嬉しそうに輝かせて俺を見上げた。答案をしまおうとしているのを、俺は手をその上に置くことで制してそれを見る。
「答案の半分が埋まっていて、点は50点。間違いは無し。ある意味満点だな」
「だって全部直クンが教えてくれた問題だもん」
「しかし、テストを半分やっただけで飽きて止めるんじゃねーぞ」
「飽きたんじゃないよぅ。・・・どうして半分しか書かなかったのかなぁ・・・」
「お前が雀を数えていたからだ」
少女は不思議そうな顔をしてじっと俺の顔を見上げている。
俺はいつものように少女の教科書や筆箱を彼女のカバンに詰めた。
「行くぞ。今日はSEVEN DAYSのアイスを食べに行く日だ」
カバンを二つ持った俺は、教室の扉へ向かって三歩歩いたところで振り返る。
少女は足を止めて教室の床の模様をまるで初めて見るかのように眺めている。
俺は少女の手を引くと廊下に向かって歩く。
そんな様子を見ていた何人かの生徒は、呆れたような顔、微笑ましく見ている顔、ひやかすような顔、実にさまざまだ。
・・・いつもの事だが。
柚子は天然100%だが、先ほどのテストからもわかるようにかなり優秀だ。
成績はおそらく俺に次いでクラス2番目・・・くらいの能力がある。
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