失われた筈の記憶。

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それでもまだ立ち上がろうとする虎次郎に対し男は、呆れて溜め息を漏らしながら、 「ほら…よ!」 両腕でガッシリと虎次郎の腹部を掴み上げ、 「おらぁっっ!!!」 「…っ!!!」 その勢いのまま、渾身のジャーマンスープレックスを叩き込んだ。 虎次郎は次に目を覚ました時、見知らぬ病室で丁重に手当てされていた。 まだ全身の節々が痛むようで起き上がる事は出来そうになく、そこにいた看護師の話によると、意識不明の重体でここへ送り込まれ、三日間眠り続けていたらしい。 「そうか…俺は負けたのか………」 その現状を知り、自身にとって生涯初となる完全敗北を味わい、暫く放心状態に陥る。 それから一ヶ月の入院を経て漸く退院すると、虎次郎はすぐにあの男に対しリベンジを強く誓った。 これまで以上に自身を厳しく鍛え、そして甘さを捨て、誰が相手でも常に全力で挑むよう心掛けた。 そしてそれから一年後、心身共に成長した虎次郎は、再びあの男に挑むべく、かつてあの男と初めて対峙した場所へと赴く。 しかし、 「そんな男は知らない」 「何…っ!」 男の存在は、まるで夢でも見ていたかのように誰にも認知されていないようだった。 それでも虎次郎は、諦めきれず1km四方を探し回り、更にその筋の様々な人物にも聞き耳を起てるが、その悉くに対し返ってくる言葉は"知らない"の一点張りだった。 それどころか、男の特徴を尋ねられた時、 「……っ!」 自身さえ、まるでもやが掛かったかのように思い出せないでいた。
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