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遠距離恋愛
「それじゃあ、おやすみなさい豊さん。またメールするね」
「うん。おやすみ、ミドリ」
フゥン。
気の抜けるような音がして彼の微笑が閉じられ、代わりに画面上に現れる"ytkyano zzz"という文字。
それを見たとたん、手を振りながら浮かべていた笑顔がしゅうっと消えていった。
「……あーあ。今日もダメ、か」
父のお下がりであるりんごマークのノートパソコンを閉じて、ううんと一度伸びをする。
よし、と気合いを入れて立ち上がり、こっそりかけていたドアの鍵を戻してからベッドに勢いよくダイブした。
コトン。
「ん?」
音につられて振り向くと、ベッドの柱にかけていたバッグの中からダイブした衝撃で小花柄のパスケースが落ちたようだった。
拾い上げて中に入れた写真を取り出し、ため息と共に戻す。
なんだかなぁ。
……はぁ。
部屋の蛍光灯から垂らしたヒモを引っ張って電気を消した。
彼とは何事もなく順調なはずだけど。
そうなんだけど。
言うほどのことでもない独りよがりなモヤモヤに今日も悩まされる。
ぱっと携帯で時間を確認。
やばっ、もう0時過ぎてるし。
明日の学校のことを考え、無理矢理視界を塗りつぶしておやすみモードへとシフト。
目蓋の裏に彼の微笑がちらりと浮かんで、
手を伸ばす間もなくすっと消えた。
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