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「一華の母親だ。一華の母親は、そうやって夜の世界で生き、一華や一華の兄弟を女手一つで育てあげたんだ。
一華のスタイルは、一華の母親のスタイルそのものだった。……死んだお袋さんを引き継ぐように」
「亡くなった……の?」
「あぁ、だから一華は夜の世界に戻って来た」
「戻って……来た?」
「一華が働いてた店は、一華の母親が経営してた店だ。
18からその店で働いてた一華は、一度は夜を上がってる。
やりたい事を見つけて、その夢を叶えるために。
その一年後だった、お袋さんが急に亡くなったのは……。
そして、一華は戻って来た」
「後を継ぐために?」
「いや、実質的なオーナーになったのは、一華の兄貴だ」
「じゃあ、どうして?」
「そうするしか方法がなかった。夢を諦めて、当時付き合っていた男と別れてまでそうするしか……」
語り続けていた響ちゃんは、ふと話を中断して、グラスに水を注ぐとそれをグイッと飲んだ。
耳を傾け続けていたあたしは、嫌な部分を見つけ出したくて、そうしていたわけじゃない。
いつしか、一華さんの話そのものに興味を持ち始めていて……、
響ちゃんが再び口を開くまでの僅かな時間さえも長いと感じるほど、その続きが知りたくて響ちゃんの言葉を待っていた。
「借金が残ってたんだよ」
重苦しそうに眉を寄せて響ちゃんが言う。
だから、水を飲んだんだと分かったあたしも、水の代わりに唾を飲み込んだ。
「お袋さんが生きてたら返せた借金だった。店のリフォームやら、何だで作った借金は、兄貴が保証人になっていた。
けど、兄貴が借金ともども引き受けたって、その兄貴は普通のサラリーマンだ。実際に店を回して行くには無理がある。
お袋さんが亡くなって、客だけじゃなく店の女の子達も離れて行って、経営は行き詰まり返済が難しくなっても仕方がなかった」
「……」
「それを巻き返すには、一華の力が必要だったんだ」
「……」
「客に信頼を得ていた一華の力が」
それって……、
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