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大きな骨ばった手が、私の髪を愛おしそしそうに撫でる。
それだけで天にも昇るほどの熱いなにかがこみあげてきて、私はほとんど泣きそうになってしまう。
彼は笑って「ばかだな、泣くなんて」と、私をやさしく抱きしめる。
素肌が重なり、私は彼に守られているような感覚に浸る。
幸福がすべてを侵食してゆく。
景色も意識も、身体の感覚さえも。
彼に身体の芯を突かれやさしく揺すられながら、私は棚のうえの金魚鉢を眺める。
夕暮れのオレンジ色に染められて、金魚鉢はきらきらと光っていた。
私はずっと、彼のそばにいることができるのだろうか。
もしもこの願いが叶わなかったなら私は金魚になるのだろう、と
幸福と快感に溺れそうになりながら、きらきらと輝く金魚鉢を眺め考える。
どこにもゆけないまま、ただその場で泳ぎ続けるまっ赤な金魚。
とまった時間のなかで、ただ生きることしかできないまっ赤な金魚。
そんな金魚に、私はなってしまうのだろう。
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