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「こーんばーんはー!」
ドアのベルと共に軽快に現れたのは、千紘さんだった。
いつもならその元気の良過ぎる登場に苦笑しながら、『こんばんは』と返していただろう。
だけど自分の思考と向き合っていた僕は、ただ現実を認識しただけで反応が遅れてしまった。
そのことに気付いたのか、千紘さんは眉をひそめて僕の隣のスツールに腰掛けた。
「どーしたの響ちゃん? 何だか暗いわよ?」
「…そんなことないよ。遅かったんだね、仕事」
「そーなの! んもう退社直前に捕まっちゃって大変だったわー」
はあーっ、と長い息を吐き出した千紘さんの前に、コースターが置かれる。
「お疲れ、千紘。いつものビールでいいか?」
「うん、お願い翔くん」
「了解」
スマートな仕草でビールを注ぐ翔兄さんを横目に、千紘さんはまた溜息を吐いた。
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