《5》

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  「…美味しいよ、すごく」 そう言うと、ぱあっと涼さんの表情が明るくなった。 「本当? 良かった。翔じゃアテにならないし」 「失礼な、ちゃんと褒めただろ」 「『あーうまいうまい』って適当にね。カクテル作るのは真剣なのに料理には興味ないんだから」 二人のやりとりが目の前で繰り広げられているのに、僕は何となく、ぼんやりしていた。 一緒に食べたもの…それとは微妙に味だって違うのに、それでも。 否応なく記憶は、彼女との時間を呼び起こす。 一緒に過ごした時間は、長くはない。 だけど思い出は、少なくない。 何でもない出来事でも、彼女となら特別な思い出に変わる。 恋心を情けないと思わなくなったら、今度は記憶と諦めとの格闘の始まりだ。 まだまだ僕は、彼女との時間を忘れられそうにない。 .
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