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こども の 棲む 家
一
その家は、“異端”だった。
いかにも新興住宅地といった、同じような冷たい表情をした家が立ち並ぶ。その中に、ぽっかりと、昔ながらの「それ」は建っていた。
建て売り住宅なら4軒分はある広い敷地内に建つ和風の借家。
それが弥生(ヤヨイ)と、夫の優一(ユウイチ)の新たな住まいだった。
敷地のほぼ半分が家屋、残り半分が庭という贅沢な造りだ。
雨の降り始めた庭の片隅には、大きな立木の傍らに小手鞠の小さな白い花弁が球状に幾つも咲き乱れ、その重みに枝を下げている。
また、別の一角には釣鐘草が群れ並び、蒼い蕾の開く時を今や遅しと待っていた。
(まるで別世界のよう…)
隣家や道との境界には低い生垣があるだけなのに、すっかり現実世界から隔離されてしまったような気がする。
縁側に繋がる和室に座り、ところ狭しと並べられた段ボールの隙間から、弥生は庭に見いっていた。
――昔ながらの良い雰囲気でしょう。大家さんの意向なんですよ――と、不動産屋が細い目を更に細め、おもねっていた様子を思いだす。
運が良い、とも言われた。“或る噂”のおかげで若い夫婦に人気の物件だと……。
「僕の目には全く片付いていないように見えるんだが……気のせいかな?」
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