-子、供。-

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 手だ──。小さく幼い、無数の手。そいつが突如靄から現れ、橋爪の身体を掴んだ。  次の瞬間、青ざめた顔の亜樹が大声を上げる。 「明日香、逃げてぇ!!」  その声で逸早く異変を察した明日香は、悲鳴すらも呑み込むようにゴクリと喉を鳴らすと、素早く転進し、乱暴に門扉を開け放った。 「逃げてっ! 早く、明日香ぁ!!」  亜樹は、道路に飛び出した明日香に向かって叫び続ける。  幸い、家の前には、混乱の際に乗り捨てられ、そのまま放置された車が幾らでもあった。明日香はその内の一台に飛び込むと、ドアをロックし、付けたままのキーを回してエンジンをかけた。 「さぁ、こっちも閉めて!」  明日香が車に乗り込んだのを確認した俺達が、急いで扉を閉めようとしたその時、鈍い音が響く。  ゴリ……ゴリゴリ──。  橋爪の右腕が、左脚が、腹が、中指が、耳が、眼球が……雑巾を絞る様に、ゆっくりと、ゆっくりと捻られていく。その内に、ミシミシと骨まで軋み始めた。  
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