-子、供。-

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「この赤を引いた二人が、外の車を使って食糧の調達に行くって事で……いいですね?」  誰も返事はしない。分かっている。  もし事態が収拾しているなら、警察か消防、或いは自衛隊なんかが救助に来て然るべきだ。それが未だに無いという事は、やはりまだ脅威は去っていないのだろう。  テレビからもラジオからもノイズしか流れず、外部の情報が全く掴めない状況であっても、事態が好転しているかもしれない──などと考える程、ここの連中は馬鹿でも楽観的でもない。  外に出れば死ぬ。皆、それに感付いているのだ。  その時、車椅子に座った蒼井が、静かに口を開いた。 「……申し訳無い、私一人だけ……」  足の悪い彼を調達に行かせる訳にはいかない。それに蒼井は逃げ遅れた俺達を家に招き入れ、匿ってくれた命の恩人でもある。除外するのは当然だ。  しかし彼には、それが耐え難いらしい。  蒼井からしてみれば、自分のエゴイズムに俺達を巻き込んだ、というだけなのだろうが、そんな蒼井に明日香と亜樹は微笑みかけ、 「お願い……します」 と、テーブルの上の割り箸を静かに指す。  何か言いたげに、だがその言葉を呑み込んで静かに頷いた蒼井は、震える手でそれらを掴み上げた。そして、俺達が彼に背中を向けると程無く、カラカラと割り箸を転がす音が聞こえてきた。  
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