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   その男は、ただのサラリーマンだった。  何の変哲も無い人生を送っており、特別何かに秀でている訳でもなかった。  表向きには。  彼が初めてその法を犯したのは同僚の男との些細な喧嘩がキッカケだった。  飲みの席の後、酔って互いに本音をぶつけた結果、争いになってしまったのだ。  その争いの最中、気が付けば同僚の首に手を掛けて、力を込めていた。  そして、物の数秒、だったと思う。その程度の時間で、一つの命が失われた。  動かなくなった同僚を前に、一気に酔いが覚めた。  いや、身体の熱も引いたその感覚は、全てが冷めたと言っていいだろう。  冷えた頭で考えた事は、まず逃走だった。  逃げて逃げて逃げて。どこをどう走ったか分からないが、気付けば自身の家に逃げ込んでいた。    
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