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高梨さんの体験だ。
高梨さんは当時、精密部品を作る工場で働いていた。
ノルマは厳しく、夜勤もフルタイムでキツかったと言う。
その工場は常日頃から『出る』と噂され、夜勤ともなると逃亡者がでる程だったそうだ。
高梨さんは所謂『見える人』というやつで大抵のモノでは動じない自信があった。
そんな高梨さんが初めて夜勤に入ることになり、工場に着くなり驚いた。
昼間と同じ場所とは思えないほど、空気が歪んでいる。
……これでは、出ない方がおかしい。
覚悟を決めて仕事に望んだ。
仕事を開始して思ったが、成る程、確かに『出る』
視界の端にちらちらと何かが蠢き、そちらを向くとなにもいない。
視線を外すとまたちらちら。
そのちらちらを追い払おうと、軽く首を振ったときだ。
歩いている。
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