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橘さんからうかがった話だ。 彼女は小さな頃、不思議な体験をしたという。 夏の暑い盛り、家族で海水浴に行こうと言う話になった。 幼かった橘さんは、大喜びで荷物を用意する両親や、歳の離れたお兄さんの間をパタパタと走り回っていたそうだ。 だが、そろそろ荷造りが終わる、という段になって、お腹が痛くなってきた。 母親に言えば、きっと海水浴が中止になってしまう。 そう思った橘さんは、黙ってトイレに行った。 急いで用を足そうとするが、なかなか出ない。 母親が様子見に来たら、『お腹が痛い』と正直に言わなければならなくなる。 海水浴は中止になってしまうだろう。 そう思って焦っているうちに、庭に止めてある車のエンジンが掛かる音がした。 本格的にタイムリミットだ。 急がなくては。 たが――
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