売ります、宝物。

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そこは、異様な熱気に包まれていた。 「さぁ、続きましてはこちら!ジュープ・ルーベンスの『ふるさと』です!」 ステージ上にあった、赤布が取り払われる。現れたのは、キャンバスに描かれた絵画。夕陽の中の田園が、暖かな色合いで描かれている。 「ルーベンスの故郷、トロット村の日常を描いた作品です。こちらは晩年に描かれた作品で、ルーベンスは引退のつもりで妻と移住してきたのですが、彼がふるさとの良さに改めて気づき、書き上げた作品です」 司会の男が説明すると、客たちは皆、納得した顔で頷いた。彼女を除いて。 ――まただわ。 倉敷 弥生(くらしき やよい)は、胸の中で呟いた。確かに『ふるさと』はルーベンスの晩年に描かれた作品だ。しかし彼は、村以外の場所に住んでいたことはないのだ。雑居ビルを書いた作品が最も有名なので知らない人が多いが、あれは彼の友人が撮った写真を絵にしたものなのだ。彼の都会への憧れがキャンパスに色濃く出ており、評価を得た。 ……と、こういった具合に、先ほどから事実とは異なった説明がなされている。より高値で買わせるために。 弥生のいるオークション会場では、絵画を始めとする美術品が数多く出展されていた。彼女も客たちと同様、並べられた椅子の端の席に腰かけていたが、彼女は購入者ではなく、出展者であった。
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