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--- 七年後の現在 ----
色づいた木々の葉も散って行き、吐く息が白くなり始めた頃。
とある街外れの丘に在る霊園で、一つの墓の前を数人の男達が囲んでいる。
男達はそれぞれが自分の仕事着を着ている様で、スーツ姿の者もいれば作業服を着てる者もいる。
そしてその囲まれた墓の直ぐ前に、一人の女性が膝を折り手を合わせ祈りを捧げている。
女性の隣には小さな男の子が、同じように小さな手を合わせていた。
男の子はチラチラと隣の女性を窺いながら、もう限界とばかりに立ち上がる。
「長いよ、茉希ぃ!もう、将もありがとって言ってるよぉ!」
そう言うと男の子は、ズボンのポケットからチュッパチョプスを取り出し包みを取って口に銜えた。
男の子が止めなければ、何時まででも祈っていそうな女性が祈りを止めて、男の子を愛おしそうに微笑んで見つめる。
「そうね、虎ちゃん。将くんもありがとうって言ってるよね。虎ちゃんは将くんの声が聴こえるのね。お母さんちょっと羨ましいな」
女性は男の子に向かって笑顔でそう語りかけた。
女性の名前は内山茉希、生意気な口をきく小さな男の子は秀虎……茉希の大切な息子だ。
虎は口に啣えたチュッパチョプスの棒を、器用に手を使わずに口の右端から左端に移動させる。
「おう、俺にはいつも聴こえてるぞ」
虎はエッヘンとばかりに胸を張って言った。
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