始まり To 終わり

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始まり To 終わり

 ワシントンD.C.にあるアメリカ航空宇宙局、通称NASA。今、この建物の4階を走る、一人の男がいた。ここに勤める、ダニエル=キーンズだ。 「おい、キーンズ! もうすぐ木星から液体金属が届くぞ! 早く来いよ!」  扉から出て、キーンズを呼んだのは、同じくNASAに勤めるフレドリック=ハンスだ。黒人のハンスは、黒々とした顔に映える白い目を見開き、190センチ以上ある体全体で、キーンズを手招きする。  そんな大げさな、と苦笑いしながら小走りで部屋へと入った。  部屋には90台ほどのコンピュータが整然と並んでいる。 「しっかし、まさか物をワープさせられるようになるなんてな」  ハンスは、部屋の正面にある大型の画面に映る映像を見ながら、呟いた。 「確かにな」  二人は、10年前に起きた、不思議な出会いを思い返していた。  2010年、日本が2003年に打ち上げた小惑星探査機はやぶさが帰還した。  日本国内では『奇跡の帰還』として大きな話題を呼び、映画化もされた。  宇宙航空研究開発機構、通称JAXAが持ち帰られたサンプルを調べた。公には、大きな成果無し、と報道されたが、真実は違った。  JAXAが発見した“モノ”は、空輸でNASAへと運ばれた。   発見されたのは、金属の生物だった。BB弾ほどの大きさの玉について、世界中の宇宙研究者が集い、調査した。  しかし、ある日事件が起きた。一人の男が、その生物を盗んで逃げたのだ。当然、非公開だったこの研究をマスコミにリークして、報酬を得ようとしての犯行だった。  騒ぎに駆けつけた研究者や警備担当たちは、NASAの研究機関の一つであるケネディ宇宙センターに男がいると割り出し、センターがあるフロリダ州ケープ・カナベラルへと急行した。  だが、そこで彼らが見たのは、想像を絶する光景だった。  男の体中に、銀色の液体が纏わりついていたのだ。いや、正確に言えば、男の体内から毛穴や汗腺を伝って、体外へと出ていたのだ。  足が凍ったように動かない研究者たちは、泣きながら銀色の液に溺れていく男を見ているしかなかった。
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