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帰蝶は槙と六人ほどの供を従えひたすら山頂の城を目指していた
「奥方さま少しご休息なされますか?」
帰蝶の息遣いの乱れを見て槙は心配そうに帰蝶を見やった
「そうじゃな…少し休みます 皆も少し休みなさい」
帰蝶は額の汗を帯びに差した手巾で拭って付き従う小者達を振り返った
「はっ」
と年長の者が片膝を着くと後の五人もそれに続いた
「奥方さまこれにお座り下さいませ」
槙は手頃な岩に手巾を敷いて清水を入れた竹筒を帰蝶に差し出した
「これは有り難い事…丁度喉が渇いておりました」
帰蝶は槙より竹筒を受け取ると岩に腰を下ろし喉を潤した
「奥方さまは以前山頂のお城へお登りになった事はおありなので?」
「三度ほどの…私の父はあまり私が城へ登る事をお許しくださらなかった故幼き頃は登りとうて良く従兄である十兵衛さまにおねだりをしたもの」
「十兵衛さまとは?」
「私の母の兄のお子での文武に秀でたそれは素晴らしいお方じゃ風雅にも長けたお方で私の憧れの従兄殿じゃ」
帰蝶の顔にははにかむような笑みが浮かんでいた
「もしや奥方さまの初恋のお方で?」
「初恋? 少し違うの申すなら私の師匠かのう」
帰蝶はそう言うと岩より立ち上がった
「…そろそろ参ろうか」
「はい」
槙はそう返事をすると様子を窺う小者達に頷いて見せた
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