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帰蝶は幾つかの曲輪を見やりながら山頂にたどり着くと岐阜の城を見上げた 真新しい土壁には汚れ一つ無く五層から成る天守は壮厳な佇まいを見せ難攻不落を思わせた
「なんと見事な…」
帰蝶は感嘆の声を漏らすと石垣の狭間に設けられた重厚な大門へ向かった手前の階段を槙の手を借りながら式台で草履をぬぎ廊下に立つと帰蝶は小者達を振り返った
「大義でした 暫し休息なさい」
帰蝶は小者達にそう言うと迎え出た女中に笑みを見せ階段へと急いだ 帰蝶と槙は無言で階段を上り三層目に辿り着くと帰蝶は立ち止まり息を整え外回廊へ出て遠く霞む飛騨山脈に目を細めた
「…再びこの眺めを目に出来ようとは…」
そう言った帰蝶の黒眼がちの瞳には涙が湛えられいまにも零れそうであった
槙はそんな帰蝶を憚り手前の板間に下がりいずまいをただして凛としたその後ろ姿を見上げた
帰蝶は四半刻ほど外回廊を歩いては遠い娘時代に思いを馳せた
そして思い定めたように振り返り伏せ目がちの槙を見やった
「…槙」
「はい」
「明日にでもお養母上さまにご挨拶申し上げたい…」
「…承知いたしました 直ぐに使いの者を報春院さまの元へ遣わせます」
「頼みます」
「陽も傾いてまいりました そろそろお館へお戻りなされますか?」
「もう少しだけ…」
帰蝶はそう言うと再び視線を遠くへ投げた
その時槙は背後に視線を感じ慌てて
後ろを振り返った
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