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結婚退職する同僚の送別会で、お祝いムードも手伝って……。
ちょっぴり増えたお酒の量が、私の口を軽やかにしたのを覚えている。
「割と良いな」って、「なんとなく好きかも?」って感じていた晋太郎さんに声をかけられて、すっかり気持ちも舞いあがっちゃっていた。
お祝いの席にはふさわしくない、苦労話をしてしまったことは、今でも後悔している。
でも、少しお調子者だけど、いつも前向きで明るい晋太郎さんは、いつになく凄く真剣な表情で耳を傾けてくれた。
優しく黙って頷いてくれる彼の存在。
それが、ただただ嬉しくて。
私の心にじんじんと沁み込み続ける温もりが、彼が力強く握りしめてくれている手の平から伝わってくるんだと気付いた時には、2人っきりで夜の街を歩いていた。
順番は違っちゃったけど……と彼は照れて。
翌日にはお付き合いが始まった。
でも、晋太郎さんも思いはしなかっただろう。
それから三ヶ月後の――ジューンブライドと言えば聞こえは良いけど、ドシャ降りの仏滅に結婚式を挙げることになるなんて。
私もビックリしたもの。
……無意識にお腹を撫でる仕種が、この一ヶ月でクセのようになっている。
――私は、その右手をグッ、と握りしめた。
ドンッッ!!!!
<3>
部屋の中まで伝わってきた地響きに、思わず腰を浮かせる。
ドアの向こうから、ためらうようにジンワリと、でも確実に空気を震わせるどよめきが伝わってきた。
戸惑いながらも、誰かを制止しようとする声も聞こえる。
恐る恐る少しだけドアを開くと、ガッチリとした身体を白いタキシードで包んだ晋太郎さんが廊下に寝転がっていた。
「シンタロウ! アンタって子は……っ」
「おばさん、落ち着いて!! 独身最後のパーティーくらい、ハメをハズしても良いじゃないっスか」
「そこんとこ、分かってやってくださいよ~……コイツも子どもじゃないんだからさぁ」
彼をかばいながらお義母様を宥めているのは、彼の幼馴染――達也さんだ。彼の最後の台詞は、私に向けられたものだ、と視線でわかる。
その視線を追うように皆の視線が私に集まって……一様に、ほっとしたような表情を浮べた。
「タツヤ……違うんだ。美知が気にしてるのは、そこじゃないんだ」
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