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――
「な、何か話とかします?だったら温かい飲み物でも用意するけど」
布団の用意ができ、依然戸惑った風にウルはルナシアに語りかけた。
「ううん……ウルくん疲れてるみたいだし……」
ウルは口では平気なそぶりを見せているが、明らかに顔色は悪く、ルナシアには彼が疲れきっていることがすぐにわかってしまう。
ただでさえ自分のワガママでウルを困らせているのに、これ以上構わせてしまっては申し訳ない。本当なら自分が出ていけばいいだけの話なのだが……それがどうしても出来ない。離れるのが怖い。
「えっと……」
ルナシアはウルの隣に敷かれた布団の中に無言で入っていく。
「ウルくんも……」
そんなルナシアの様子に、ウルは小さく息を吐き出すと、照明のスイッチに手をかけた。
「う、うん……。じゃあ電気消すね」
部屋の明かりが消え、代わりに小さな電灯の明かりがルナシアの顔をおぼろげに照らし出していた。
ウルも布団の中に入り、ゆっくりと目を閉じた。
「……ウルくん、起きてる?」
隣から、ルナシアの小さく震えるような声が聞こえてくる。
「うん」
「さっきね……自分のお部屋で目が覚めた時。ウルくんが目の前にいなくて……帰ってきてくれたことも全部夢だったんじゃないかなって……すっごく怖かった」
まだ少し泣いているのだろうか、そんな弱々しい少女の声。
「今も……怖いよ。明日また起きたら……ウルくんがいなくなっちゃうんじゃないかって……すごく怖い」
視界の隅に映る少女の体は小さく震えている。
「ルナちゃん。手……繋ごっか」
ウルは天井を見つめながらそう呟いた。
今までのこの少女の頑張りや苦しみ、そして今抱いてる恐怖感を、自分が全てわかってあげられることなど出来ない。この少女にしかそれはわからないのだから。
「…………」
ルナシアの小さな手がウルのそれと重なる。
――手を繋ごうと思った。
上手くことばが出てこない自分に出来ること。それはこれ以上ないほど単純で簡単なことだった。
居なくなることを恐れるのならば、今繋がっていることを形だけでも感じてもらいたかった。
目に見えないその繋がりを確認することは難しい。だが、今二人のその右手と左手は確かに繋がっている。この事実は決して夢なのではなく本当なのだから。
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