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「お邪魔しまーす」
初めて上がった由紀の家はとにかく広かった。
今時珍しい平屋で、何間もある畳の部屋が柱と襖で仕切られている。
「いらっしゃい、ゆっくりしていってね」
出迎えてくれた由紀の母親は着物姿。
純和風の家と家族が、何だか懐かしさを感じさせる。
「由紀の家、凄いね」
辺りを見渡しながら千尋が感嘆の声を上げた。
「古いだけだよ」
苦笑する由紀に案内されて、長い廊下を歩く。
「おうち、何かやってるの?」
「お祖母ちゃんと母親が日舞教えてる」
「へぇ、日舞って儲かるんだ」
身も蓋もない物言いに、千尋が慌ててたしなめた。
「瞳子っ」
「あはは、いいよ。千尋は気にしないで。儲けたのはひいお祖父ちゃんだよ、日本画家だったの。父親はサラリーマン」
廊下だけになったそこを抜け、目的の場所へ来ると、由紀はドアを開けた。
どうやら由紀の部屋は離れにあるらしい。
渡り廊下を過ぎると、急に今風の造りになり、招かれた由紀の部屋はフローリングで洋風だった。
「ああ、何か由紀っぽいね。あのまま純和風の部屋だったら面白かったのに」
「瞳子は私を何だと思ってるの」
残念そうな声音に由紀が笑いだす。
「由紀、着物似合いそうじゃない?お命頂戴致します、みたいな感じで」
「………それ、よく言われる」
「あは、やっぱり言われるんだ」
「由紀は大人っぽいもんね。いいなぁ、私も大人っぽくなりたいよ」
「千尋はそのまんまがいいよ。姐御の千尋とか想像できない」
「うんうん、想像できないね」
「もう!二人してっ」
膨れる千尋を二人は笑った。
女の子が三人集まると話しも弾む。
由紀の家にやってきたのは午後一時頃だったのだが、あっという間に夕方に差し掛かる時間になっていた。
途中、由紀の母親が挨拶をして出掛け、家の中は三人だけとなった。
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