第二章  穏やかな“戦神”

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 立ち止まり、名乗ろうとした途端に、そう言葉が降った。  驚いて顔を上げると、優しげな笑みを浮かべた、長い髪の少女が… いや、垂髪と裾の長い寛衣のためにそう見えたのだろう。 “戦神”スン皇子が鹿革表具の巻物を手に、穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。 「し、失礼いたしました!」  グィグロは慌てて顔を伏せた。  貴人、特に王族に対しては、挨拶の口上を述べた後、相手の許しを得てからでないと頭を上げてはいけない。五歳の幼児が最初に仕込まれる礼儀だ。  何という失態!  グィグロは唇を噛んだ。感覚がないはずの顔の大鴉までが熱くなったような気がする。 ********** 垂髪(すいはつ)…髪を下ろしたヘアスタイル 寛衣(かんい)…インドのパンジャブ・スーツみたいなのを想像して下さい。服装の格としては、ジャージ上下か、トレーナーにジーンズって感じです。 鹿革表具(しかがわひょうぐ) **********
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