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空は、深い深い鉛色。
今にも激しく降り出しそうな空は、街行く人々の足を急かしている。
やがて一つ二つと色とりどりの花のような傘が開くのに合わせるように落ち始める水の雫。
初めはポツリポツリと音がハーモニーを奏でるかのようで、足音が文章力のあるライターのように織り成す異色のオーケストラだったが、すぐに一音の不協和音に。
この音のせいなのか、街は重く沈んで、より一層陰鬱な雰囲気を漂わせている。
人は建物に避難し、生き物もそれぞれの家に帰していた。
――――そんな中、場違いに外に出ている人間が一人。
いや、出ていると言うよりは立ち尽くしていた、と言う方が正しいのかもしれない。
誰も来ないような小さな林の中、少しだけ開けた場所に立ち尽くしている人間。
その人間は、泣いていた。
誰に見られることなく。
誰に知られる訳でもなく。
殆ど雨にかき消されているから分からないが、顔を押さえてただただ泣き続けていた。
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