902人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
色々と悩んだ末に進学することになった僕は、実家から電車で百二十分と言う距離にある川越の大学を目指すことになった。
受験は別のキャンパスである板橋だったために、初の東京進出に軽い緊張を胸にしながらもあっさりと合格。
尚、後に大学で出会う数々の武勇伝を持つ千葉出身の大宮は、受験開場で各教科の筆記試験が終わる度に『簡単だった』と大声を出して周りにプレッシャーを与える作戦を決行したそうだ。
本人曰く、あれで五、六人は落ちたらしいが、その話が実話でなかったとしても、千葉出身の大宮とは同じ会場でなかったことが幸いだった。
啓大も専門学校に通い始め、羽村は上京。
みんな離れ離れになってしまうのかと少し寂しく感じたが、実家に帰ってきた時には連絡して遊ぼうと約束を交わした。
ゴールデンウィークには羽村のアパートへ泊まりに行く計画も進行中だった。
一人暮らしの部屋が片付いて、両親の後ろ姿を見送れば、解放感と、早くもほんの少しのホームシックに襲われる。
初めての夜は、だけどそれなりに楽しかった。
読書の時間がたくさんとれたし、何より遅くまで起きていても注意する人がいないのは、他の何よりも素敵なことだった。
紫陽花凛はその後どうしたのか。
僕は心のどこかでずっと気になっていた。
もう知ることはできないどころか、二度と会うこともないのかもしれない。
そう思うと、やはり高校時代にもっと話しておけばよかったと後悔ばかりが付きまとう。
あの雨の帰り道、確かに僕を見上げた紫陽花凛の姿が、もう一度頭に思い返される。
はっきりと目を合わせることができなかったから、過半数が捏造された記憶かもしれない。
だとしたら、この脳内再生された紫陽花凛は相当美化されている。
最初のコメントを投稿しよう!