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~ ~ ~ ~ ~
狭く薄暗い仕事場兼ガレージの中。
俺はセブンスターを燻らせながら愛しいショベルを愛撫していた。
小さな窓の下に置かれたドラム缶の上。
永吉が眠そうな顔で俺を眺めている。
「ドコドッ! ドコドッ! ドコドッ!」
俗に言う『3拍子』
古いハーレー。
特にショベル以前のエンジンで、ポイント点火のキャブ車のみに与えられる排気音。
俺はこの独特な排気音を聞きながらタバコを吸う時間が好きだった。
普段は物音に敏感な永吉も、このショベルの鼓動だけは子守唄のように感じるらしい。
この一週間、愛車のエンジンをかける事も忘れていた。
いや、飯を食う事も、酒を飲む事すらも忘れていたんだ。
昨日、ふーこの手術が無事に終わったという連絡があった。
ふーこのお袋は、
「このまま順調に行けば・・・」
俺は嬉しさを押し殺すようにショベルのエンジンに火を入れたんだ。
どうやら俺は素直に喜びを表現出来るタイプの男ではないらしい。
しかし・・・
その時、店の電話がけたたましい呼び出し音を響かせた。
いつもとは違って聞こえるベルの音・・・
嫌な予感・・・
アメリカからの国際電話。
ふーこのお袋だった。
「ヒロさんっ!ふーこが!ふーこが!」
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