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こうして手紙を送るのは久しぶりですね、姉様。
お元気でしょうか?
これ以上前口上も浮かばないので、本題に移ります。
先日彼が自殺しました。アパートの浴室で手首を切って、見つけた時には冷たくなっていました。
「お前に必要とされない生なんて、俺は続けたくない」
そんな遺言が居間には残されていました。
彼はとても優しくて、彼はとてもかっこよくて、彼はとても優秀で、どうして私なんかを好きになってくれたのか、疑問に思います。
だから、私は彼を束縛しませんでした。嫌われたくなくて、束縛なんてできませんでした。
それは彼が学校の女子に告白されたりしても同じで、今回のことはその三回目の直後でした。
私は束縛しない代わりに、彼をひたすら信じることにしていました。もし捨てられたとしても、それは自分に非があったんだと、いつでも受け入れる覚悟はしていました。
だから、彼の意見を常に尊重して、彼が告白してきた子より、私を選んでくれたことにも、過度に喜んだりすることの無いよう、自分を律していました。
最初から自分が一番になろうなんて、厚かましいことと、距離も必要以上に縮めないようにしてきました。
でも彼は私を一番としていました。
私なんかを一番としてくれていました。
今さらになって、そのことに気付きました。
もちろん気付いたところで、彼は戻って来ません。
死ぬというのはそういうことです。
姉様、私はどこで最初に間違えたのでしょうか?
彼の気持ちになろうとしなかったことでしょうか?
気持ちをちゃんと伝えなかったことでしょうか?
伝えるだけでもなどと告白なんてしてしまったことでしょうか?
私なんかが彼を好きになったところでしょうか?
そもそも生まれてきてしまったことでしょうか?
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