プロローグ

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「数学の樫山先生がお休みなので、今日の授業は自習にします」 教頭先生の言葉に、クラスは歓声に包まれた。 午後イチの数学ほど精神にダメージを与える拷問はない。 おまけに担当はあのカジヤンマだ。当然の反応だったろう。 「不謹慎だけど、ちょっと嬉しいな」 隣の席の三田さんも、控えめにそう言う。 「そうだね」 答えて、僕は三田さんを見つめた。 サラサラショートの三田さんははにかんで、それでも僕から視線を外さない。 形成されたラブラブ結界が、周囲の騒ぎから僕らを隔離した。 入学式で一目惚れしてから苦節一年半、ようやく築き上げたこの関係。 週末には初デートも控えている。僕の唇の貞操も、風前の灯かと思われた。 『ちょっと、お兄?脳みそピンクしてるとこ申し訳ないけど』 ……幸せな時間というのは長く続かないものだ。 テレパシーで話しかけてきた夕妃(ゆうき)に、僕はささくれた『声』で返した。
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