1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
腕時計をはめながら、俺はそれの表裏までしっかりとチェックしていた。
この時計は何かおかしい、そう思ったからだ。
『コレ…なんか変じゃないっすか?』
『ボタン無い…みたいね、時間は表示されてるけど、どうやって時刻のズレを直したりするんだろ?』
『電波式でオートなんすかね?
最近は多くなったみたいだし』
小声で宮澤さんと話しつつ、俺はデジタル表記された数字を見つめた。
バックライトボタンも無いようだけど、オートで点灯する機能とか、文字だけがオートで光る機能があったりするんだろうか。
「えー、では皆さんちゃんとその腕時計を装備して、ちゃんとプリントも読んで下さいねー。
ゲームの開始は…そうですねぇ……」
矢島がチラリと自分の腕時計を見る。
それは俺達が受け取った黒い腕時計ではなかった。
この腕時計には何か変な仕掛けでもあるんだろうか、そんな疑問が浮かんでしまう。
まあ、ゲーム用に参加者だけが使う腕時計なのだとしたら、矢島がコレと違う腕時計をしているのなんて当たり前なんだろうけど。
「…一時半にしましょうか。
皆さん昼御飯も食べた後でしょうし、少しゆっくり身体を休ませながらルールを読んで下さい。
今から20分くらいですから、トイレに行く人は早めに行っておくといいですよ」
「解りましたー」
「あぁぁぁあ、マジでやるんだぁぁ…」
「おーい、早く便所行こうぜー」
「やっぱり面倒くさそうだわぁ」
口々にする生徒達。
反応は様々だったが、俺が子供の時にやった運動会前もみんなこんな感じだったような気がする。
つまり、普通の反応だと思う。
何も違和感を抱かない、ありふれた日常の中の1シーンなんだっていう。
「…始まっちゃう、ね?」
「ん?…うん、そうっすね…」
「先生方もお願いしますよ?
真剣にやらないとダメですからね」
メガネを上げた矢島から、俺は手元へ視線を移した。
手元にあるプリントへと。
『鬼ごっこ』
表紙にそう書かれたプリントを。
最初のコメントを投稿しよう!