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ゆるりと生温い風が頬をなぜて、飛鷹(ヒダカ)はゆっくりと辺りを見渡した。
ああ、自分はこの風景を良く知っている、そう思った。
田舎の実家、祖父の家は、さすが都内辺境の地とも言うべきかやたらと広い裏庭があり、その裏庭にはやたらとでかい古池があった。
聞けば古池は祖父が生まれる前からそこに鎮座しているもので、いかにも古い田舎のならわしらしく、その昔ご先祖様達がこの地へ住み始めた頃より何かしら神様でも奉っているんだろうと言う話しである。
濁っているわけでも無いのに暗く、底が見えない池ははまるで地面に空いた大穴のようだ。
そこにいきものの気配はなかった。
ぴんと張り詰めた水面は鏡のようにどんよりと雲が垂れ込めた空を映し、静かにたゆたう。
そもそもが怪しい要素満載の庭には、緑の生い茂った垣根や高く伸びた草花なんかが至る所に群生していたが、不思議とその古池の周りだけ綺麗に刈り取られていた。
この間テレビで見た、宇宙船が着陸した後みたいだ、とぼんやり思う。
そんな古池のほとりに、幼い飛鷹は静かに立っているのだった。
そういえば。
とぼんやり思い返す。
確か、今日は自分の9つの誕生日だったのだ。
都会に離れて暮らす最愛の孫を呼び出す絶好の機会とばかりに祖父から電話で提示された誕生祝いのお誘いは、大人ぶっているとは言ってもまだまだ十二分に子供精神逞しい飛鷹にとって、非常に魅力的なものだった。
何しろ田舎の祖父の家は、先にも言った通り都内辺境と言う名に相応しく、真夏の昼間でもひんやりと薄暗い雑木林とか、見るからに怪しげな荒れ放題の古い祠とか、曰く付きらしい苔むしろの洞窟とかが、9つの子供の足でも一日あれば見て廻れる様な範囲内にいくつか点在していた。
家から遠く離れた場所であるわけでなし、元々勝手知ったる自分の生家と言うこともあって、普段は他と同様それなりに口煩い飛鷹の母親もある程度の冒険は黙認してくれていた。
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