プロローグ

2/3
35人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
 涙が涸れる程泣いた後。  彼女は朦朧とした意識の中、微かに震える手で瓶の蓋を外し、白い錠剤を掌で受けた。  そのうちの何粒かが掌から溢れ、膝を伝い、ぱらぱらと固い音を立てては暗褐色の床板の上を転がっていく。  一瞬、何錠飲もう、と迷ったのは意外だった。  迷うことなんか、何もないのに。  泣き笑いの表情で、彼女は唇を歪めた。  彼のいないこの世界で、これ以上失うものなんかないのに――。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!