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「うぅ……さっむ……。やっぱ少し早かったかもね?」
私は寒さ対策に為持参した上着を羽織り、ボタンをとめながら夜空を仰いだ。
冬に逆戻りでもしてしまったようで、キンと冷えた風が時折私の頬を刺した。
吐く息は白いのにそれでも空気が澄んでいるようで、視界に広がる夜桜の花びらひとつひとつが、くっきりとしたピンク色を映しだしていた。
流石にこんなに寒いとは思わなかったのだけど。一週間前の天気予報じゃ暖かくなるって言ってたのになぁ……。
そんな私の肩を横からポンと叩く萌(もえ)は、恨めしそうに目を細め口を開いた。
こんな時でもド派手なロリータファションだが、今日は少し和風な装いで、花びら柄のスカートが萌にとても似合うなと思っていた。
「何が何でも花見しようって言ったの陽菜じゃんか! それに、来週からは桜散っちゃうから寒いけど、今が見頃だからってゴリ押ししたのも陽菜でしょうが? 何を今更言ってんの?」
確かにそうだけど。
でも、ここまで寒いとは思ってなかったりして。
私は萌に何も言い返せず手をこすり合わせていると、反対側に座っていた十夜(とおや)が、私に向かって何かを差し出してくる。
「まぁまぁ、そう言うなって。陽菜だってここまでとは思って無かったんだろ? ほーんと、陽菜はいつもどこか抜けてるよな?」
そう言いながら、既に温まったオレンジ色のカイロをさりげなくくれる十夜。
いつもおちゃらけているけど、本当は凄く思いやりがあって、いつも助け舟をだしてくれる。
「有難う。めっちゃ温かいよ……」
貰ったカイロを頬に押し当てると、心地のよい熱が伝わってくる。
十夜って優しいなぁ。
そんな事を思っていると、この寒さよりも、氷点下にまで達した言葉が私に降り注ぐ。
「おい、花見するんだったら防寒の用意くらいしておけ」
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