4/6
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
次に出たサインは内角、鷹見は首を振る。 もう一度同じサインが出たところで鷹見はプレートを外した。 タイムを要求して、捕手がマウンドへ向かう。 鬱陶しげな表情を隠そうともしていなかった。 「どうしたんすか鷹見さん」 ミットで口元を隠しながら捕手が訊いてきた。くちゃくちゃとガムを噛んでいる。 リラックスの為だと判ってはいるが、鷹見はそれが好きになれなかった。 「内はまずいだろう」鷹見は言った。「外に投げときゃ振ってくれる」 相手はあからさまに顔をしかめた。 「内ならひっかけてゲッツーですよ。セカンドショート寄せてるし」 五番はプルヒッターだ、確かに一理ある。 だが、鷹見は知っていた。 こいつは鷹見の曲がって落ちるスライダーを使いたくないのだ。 「ちゃんと捕れるところに投げてやるから安心しろ」 その言葉を、鷹見は辛うじて飲み込んだ。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!