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次に出たサインは内角、鷹見は首を振る。
もう一度同じサインが出たところで鷹見はプレートを外した。
タイムを要求して、捕手がマウンドへ向かう。
鬱陶しげな表情を隠そうともしていなかった。
「どうしたんすか鷹見さん」
ミットで口元を隠しながら捕手が訊いてきた。くちゃくちゃとガムを噛んでいる。
リラックスの為だと判ってはいるが、鷹見はそれが好きになれなかった。
「内はまずいだろう」鷹見は言った。「外に投げときゃ振ってくれる」
相手はあからさまに顔をしかめた。
「内ならひっかけてゲッツーですよ。セカンドショート寄せてるし」
五番はプルヒッターだ、確かに一理ある。
だが、鷹見は知っていた。
こいつは鷹見の曲がって落ちるスライダーを使いたくないのだ。
「ちゃんと捕れるところに投げてやるから安心しろ」
その言葉を、鷹見は辛うじて飲み込んだ。
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