手離し難き運命

2/10
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
カーテンから零れた月影が窓から射し込み、部屋をぼんやりと照らす。 それは苦手な昼の終わりを告げるのと同時に、私の眠りを覚ましていく。 不思議なくらいに、静かな夜だ。 「――咲夜。咲夜?」 身体を起こし、眠たい目を擦りながら、私は彼女の名前を呼んだ。 でもそれに応える声はなく、この寝室には私一人だけだ。 私が名前を呼んだ少女が現れる事は無かった。 「咲夜ー。」 もう一度呼ぶが、やはり結果は変わらない。 いつもなら、こんなことは無いのに。 はあ、咲夜はどうしたのかしら。 ――咲夜、十六夜咲夜は、私の大事な、有能なメイドだ。 掃除に洗濯、食事の支度にその他雑務、要するに殆どの仕事を彼女に任せていた。 ……時には館に忍び込んだ“ネズミ獲り”を頼む事も。 一声名前を呼べばすぐに現れ、命令すれば瞬時に用意する。 問えば答えるプログラムのように、咲夜の仕事はいつも完璧だった。 私の永遠のように長い人生の中でも、咲夜のような人間はそうは居ない。 この館にとって欠かせない人物であり、それは私にとって、という意味でもあった。 そんな彼女が、私の起床に合わせないなんて……。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!