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カーテンから零れた月影が窓から射し込み、部屋をぼんやりと照らす。
それは苦手な昼の終わりを告げるのと同時に、私の眠りを覚ましていく。
不思議なくらいに、静かな夜だ。
「――咲夜。咲夜?」
身体を起こし、眠たい目を擦りながら、私は彼女の名前を呼んだ。
でもそれに応える声はなく、この寝室には私一人だけだ。
私が名前を呼んだ少女が現れる事は無かった。
「咲夜ー。」
もう一度呼ぶが、やはり結果は変わらない。
いつもなら、こんなことは無いのに。
はあ、咲夜はどうしたのかしら。
――咲夜、十六夜咲夜は、私の大事な、有能なメイドだ。
掃除に洗濯、食事の支度にその他雑務、要するに殆どの仕事を彼女に任せていた。
……時には館に忍び込んだ“ネズミ獲り”を頼む事も。
一声名前を呼べばすぐに現れ、命令すれば瞬時に用意する。
問えば答えるプログラムのように、咲夜の仕事はいつも完璧だった。
私の永遠のように長い人生の中でも、咲夜のような人間はそうは居ない。
この館にとって欠かせない人物であり、それは私にとって、という意味でもあった。
そんな彼女が、私の起床に合わせないなんて……。
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