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爽やかな日差しが世界を照らし出し、小鳥達が囀る静かな朝…。
ある家の二階、その一室からけたたましいベルの音が鳴り響いた。
ジリリリリリリリ。
「…にゅあー…うるさいなぁ…もぅ…」
ベッドで睡眠を貪っていた少女は、寝惚けた様子で可愛らしい声をあげながら枕元にある音の発信源、目覚まし時計のボタンを押した。
すると、主人が起きたと認識した目覚まし時計はその役目を終了する。
「…うん、いい子いい…子………すぅ」
鳴くのを止めた目覚まし時計をまるで子供を慈しむ様に撫でると、少女は再び眠りの世界へと戻ってしまった。
………しかし。
ジリリリリリリリ。
「…んにゃあ?」
止めたはずの目覚まし時計が再び鳴り始めたので、現実へ引き戻された少女は不思議そうな声をあげながら目覚まし時計の頭をポンポンと叩く。
ジリリリリリリリ。
「ふぇ?…どうしてぇ…?」
しかし、音は一向に鳴り止まない。
それどころか…。
ジリリリリリリリ。
ピピピピピピピピ。
カッコウ、カッコウ。
起きろこの野郎!
等々、多彩な音が時間差で次々に鳴り出したのでもう大変。
静かな朝は瞬く間に引き裂かれ、眠気を吹き飛ばされた少女は思わず叫び声を上げた。
「きゃああああ!」
その時である。
彼女の叫び声が上がった瞬間と言っていい。
突然部屋のドアが乱暴に開け放たれた音がしたかと思うと、少女を苦しめていた音が一斉に鳴りやんだのだ。
それを不思議に思ったのか、音から逃れようと布団に潜っていた少女は恐る恐る顔を出す。
「…大丈夫か?」
「お兄ちゃん!」
すると、そこには少女の兄、『崇(たかし)』が無数の目覚まし時計を器用に抱えて立っていた。
音の拷問から助けられた少女は思わず情けない声を上げる。
「はぁー…ありがとう、お兄ちゃん…助かったよぉ」
「全く…叫ぶくらいなら目覚まし時計を何個もセットするなよ、いくら朝が弱いからって」
「へ?」
呆れ気味に言われた少女は思わず間抜けな声を返した。
何故なら、少女はその無数の目覚まし時計をセットした記憶が無いのだから。
「…え…それ、私のじゃ無いんだけど」
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