序章

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 《文学少女》と呼ばれる事は多々あったが、思い返してみれば、《本の虫》と呼ばれた事は一回もなかった気がする。  だからどうなんだ。と言う話になるが、私にとって、これは重要な意味を持つ。  ――私を《文学少女》と呼ぶ人は、私の表面しか見ていないのだ。  我が親友曰く『本を読むと人どころか、その身そのものが変わる』らしい。  その身そのものが変わる――レンジャーヒーローよろしく変身する訳でなく、身体能力が抜群に変わると言う事。  元々、私は陸上部に所属していた。長距離専門。走るだけなら自信はある。跳躍、投擲、ましてや格闘技や球技、走る以外のスポーツなぞ、てんで駄目。  しかし、読書中の場合、その定義が覆される。  私はちょくちょく、本を読みつつ歩く。その歩みは常に真っ直ぐ。障害物があったら、それを華麗に回避、もしくは“破壊”する――と、親友である彼に言われた。  例え、その障害物が、猛スピードで走ってくる自転車であっても。草野球の最中飛んできたボールであっても。地元で有名な暴走族であっても。  そう言われてみると、本を読んでて、いつの間にか隣町に来ていた事があった。運良く家に着いていた事もあったし、名も知らぬ神社に夜中まで居座っていた事もあった。そう言えば、周りに不良が大勢倒れていた事も――思い出そうとすれば、そんな苦い記憶が何回もリフレインする。
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