傷と、痛み

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「――サエリア!!」 思わず叫んでいた。 リアはハッとして振り返る。 「うそ、……なんで私の名前……」 この時初めて要はリアの名を呼んだ。思わず口から出てしまった。 「私は、……サエリア」 初めて名前で呼んでくれた。要という男は、サエリアと確かに呼んでくれた。 ――大嫌いなあの人たちは一度も呼んでくれなかったのに。 「か、な、め……」 「来い、サエリア!」 「かなめ……!」 リアの体が要の方に向き直り――足を滑らせた。体は宙に向かって投げ出される。 「え……」 「リア!」 呪縛が解かれ、全力で走る。足の筋肉に物言わせ爆発的な加速でリアの元へ。脱兎のごとく駆け抜けてなんとかリアの腕を掴むことに成功した。 しかし勢いは殺せない。 だからその腕を掴んだあと、すぐにリアを引っ張り、入れ替わるようにして要が宙に投げ出される。 「……しょうがないか」 「要――」 要が落ちていく。どんどん小さくなっていって、米粒くらいの大きさになった瞬間、何かが弾ける音が響いた。 寒気がする。吐き気がする。 リアは混乱して戦慄し、失禁して、駆けつけた那由多に鎮静剤を打ち込まれ、意識がなくなった。
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