欲望

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 とある町のとある高校に通う少年と少女。彼らは幼稚園の入園式で出会い、高校三年生になった今までずっと一緒。二人で作った思い出の数は語りつくせないほど。共に過ごした時間は家族よりも多いかもしれない。そんな、仲の良い幼馴染たち。きっとこれからもずっと一緒。死ぬまで一生一緒かもしれない。  少年は、彼女を欲していた。思春期らしい甘酸っぱい濃いとか昔から好きだったとか……最近の青春ドラマや少女漫画にありがちな恋愛感情とは違う。もっと別のもの。甘いとか切ないとかの表現は不適切。色んな味がぐちゃぐちゃに混じった、なんとも表現し難いどろどろした感情。  強いて言うなら《欲望》。少年自身もその感情の全貌はわからなかった。いつからこんな感情を抱くようになったのか、いったい彼女の何を欲しているのか。彼女の体か心か、それとも……どれだけ考えても答えはでなかった。  ただひとつ少年がわかったのは、彼女の全てが欲しいわけではないということ。人間は一生掛けても自分の全てすら知ることができない。まして、自分以外の人間の全てを知ることなどできるわけがない。もちろん長年共に居た彼女も例外ではない。でも、それでも、少年は彼女を求めた。彼女に執着した。これは《欲望》と言わずになんと言うのか。  あるとき、少年はこう考えた。 「人間に理性なんて、要らない」  欲望に忠実な獣の方が利巧で、理性を持つ人間の方がはるかに醜い。理性を必要とするほうが間違っている、と少年は思うようになった。少しずつ、少年の欲望が深くなっていく。  人々は理性というフィルターを取り払って自由になるべきだ。そうすれば皆幸せになれる。今の世の中は間違っている。在って良いのは欲望に忠実な生物だけ。今こそ人々は解放されるべき。そうすれば皆幸せに――  少年の頭の中で彼独自の幸福論が膨らんで言った。そして、ついに耐えられなくなり、自分の身の回りに居る人々に話した。誰もが納得してくれるはずだ、と少年は固く信じていた。だが、実際は誰一人として彼に賛同しなかった。それどころか……
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