五、 出張

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「近藤、そのことに関しては俺ぁ言い訳できねぇなぁ。」  そう言う芹沢の姿は、どことなく哀愁を帯びていた。 「……ただな、そのことに関して謝ることも俺にはできねぇ。」  続けて芹沢は、はっきりとそう言った。 「……私達は、不逞浪士を取り締まる為に来た筈だ。力士を斬殺する為に来たんじゃない……!」  近藤は膝の上で握り拳を作った。その語尾は思いに反して強いものとなった。  近藤自身、その考えが正しいのか自信がなくなっていた。  京に残った時、自分は正義の為行動していると胸を張って言えていた。  しかし今は微かに震えているのには自嘲するしかない。  そんな近藤の心配を他所に、芹沢は暫しの沈黙の後、口を開いた。 「……お前は何だ、近藤。」  近藤はその問いの意図が判らず返答を渋った。  そして浮かんだ“私は私だ”と言う答えをもみ消した。 「お前は局長じゃあないのか。」  芹沢の視線は真っ直ぐ近藤を射抜いた。まるで射殺す気でいるかのような視線だ。  近藤は返事を返すどころか、頷くすら許されなかった。 「──局長は、上に立つ者というのは、常に責任がある。 ……その行動は疎か(おろか)、身振りの一つ一つに隊の命運が懸かる時がある。」  それは近藤にも身に染みていることであった。  しかし本題はそれではないようで、芹沢は続けた。
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