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「近藤、そのことに関しては俺ぁ言い訳できねぇなぁ。」
そう言う芹沢の姿は、どことなく哀愁を帯びていた。
「……ただな、そのことに関して謝ることも俺にはできねぇ。」
続けて芹沢は、はっきりとそう言った。
「……私達は、不逞浪士を取り締まる為に来た筈だ。力士を斬殺する為に来たんじゃない……!」
近藤は膝の上で握り拳を作った。その語尾は思いに反して強いものとなった。
近藤自身、その考えが正しいのか自信がなくなっていた。
京に残った時、自分は正義の為行動していると胸を張って言えていた。
しかし今は微かに震えているのには自嘲するしかない。
そんな近藤の心配を他所に、芹沢は暫しの沈黙の後、口を開いた。
「……お前は何だ、近藤。」
近藤はその問いの意図が判らず返答を渋った。
そして浮かんだ“私は私だ”と言う答えをもみ消した。
「お前は局長じゃあないのか。」
芹沢の視線は真っ直ぐ近藤を射抜いた。まるで射殺す気でいるかのような視線だ。
近藤は返事を返すどころか、頷くすら許されなかった。
「──局長は、上に立つ者というのは、常に責任がある。
……その行動は疎か(おろか)、身振りの一つ一つに隊の命運が懸かる時がある。」
それは近藤にも身に染みていることであった。
しかし本題はそれではないようで、芹沢は続けた。
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