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「近付いてくるなオーラがあからさまだったから、わざと笑顔で近付いてやったのよ。
こんにちは、いつもお世話になってますってね。
そしたら物凄く迷惑そうに「こんにちは」って挨拶返してきたの」
「……………」
「それ見て、横にいた女の人が泉さんに「どなた?」って聞いてさ。
渋々「取引先の事務員さん」って私のこと紹介したの。
そしたらその女の人、すぐに笑顔になって「いつもお世話になっております。泉の家内です」って言ったの」
一気にそこまで喋ってから、博美はふーっと大きく息を吐き出した。
あまりのショックに、佳奈子は言葉も出てこない。
ゴオーッという空調の音だけが車内に響き、強い風が佳奈子の汗ばんだ肌を撫でた。
「……………大丈夫?」
気遣うように声をかけられ、佳奈子は虚ろに顔を上げた。
博美は心配げに佳奈子の顔を見つめていた。
「どれぐらい付き合ってたかは知らないけど……全く気付かなかったの?」
「………………」
問われて佳奈子は、過去に何度か泉の車に乗った時に違和感を感じたことを思い返した。
「………何回か、おかしいなって思うことはあったんですけど……。
会社の車が開いてない時は自分の車を使うからって……。
色んな人が乗るからって……上手くはぐらかされて……」
「……………そう」
博美はボソッと呟いた。
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