橘和美の夢

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 この学校は4月に入学式がある。この学校に限らず、この国ではほとんどの学校が4月に入学となる。学校に限らず、あらゆる慣習が4月が始まり、となっている。桜が芽吹き、生命が活動を始め、優しい風が吹き、春が香る。  学校に限って言えば、新入生は期待と不安に胸を躍らせる。そういう季節。私もかつて躍らせた。期待と不安に、押しつぶされそうになりながら。  橘和美はヘッドホンを耳から外した。そこから流れていたのは音楽ではない。ジャックは彼女の目の前で黒い画面を流しているコンピュータに繋がっている。ハッキングを行っているわけではない。CentOSというシステムらしいが和美はいまいちわかっていなかった。  ネットワークで管理された英語の講義を受けていた。ただそれだけ。英語が得意である和美はそれを早々と終わらせた。しかしそれで早々と教室を出て行っても良いというわけでもなかった。この程度においても規律ある集団行動を取らなければならない。とろい奴は嫌いだ。和美は密かに悪態をつく。自分に。そうかといってそいつが自分より下であることが絶対条件である、と考えてしまっている自分に。 「橘さん早いですな」
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