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私は普段あまりサングラスを掛ける事は無い。ましてや室内で掛けるなど皆無だ。
しかし今現在だけは室内なのに掛けている。理由は簡単だ。目の前に居る金毛九尾狐から発せられる金色の光が物凄く眩しいからだ。
ここは私の事務所の……人間より体が大きい者が訪れた時に使う広い方の応接室。私はソファーに腰を下ろし、ガラスのテーブルを挟んで金毛九尾狐と対峙していた。……と言ってもこの金毛九尾狐、確かに体は人間より大きいが、バカみたいにデカイ訳ではない。九つもある尻尾に見合った体の大きさだ。まあ、獅子や虎を一回り大きくした者を想像してくれれば良いだろう。
その金毛九尾狐が口を開く。
『先生……妾は悔しいのじゃ……』
「一体何がだ?」
顔の前で指を組みながら私は問う。
『……妲己の事じゃ。あの者のせいで妾達は……妾達は……』
「――悪の大妖怪に仕立て上げられてしまった……と」
ここで私はサングラスを怪しく輝かせた――と思う。
この私の言葉に、本来細い金毛九尾狐の眼――いや、もう面倒臭いから九尾の狐と呼ぼう。その九尾の狐の細い眼が丸々と膨れ上がる。
そして私は続ける――
「本来、九尾の狐と言えば龍や鳳凰、麒麟に並ぶ瑞祥を告げる瑞獣だ……」
知らない者のために言っておくと、瑞祥とは吉兆の事だ。龍や鳳凰、麒麟に九尾の狐、これらの者が人前に現れる時、必ずこの瑞祥が起こると言われている。
「……だが、近代での九尾の狐の扱いは正反対で、一国をも傾ける程の力を持った邪悪な存在である事が多い。これはまず間違いなく妲己の影響……だろう?」
私の言葉に、九尾の狐は膨れ上がらせた眼をそっと伏せる。
『流石は魔道弁護士の先生。全てお見通しの様じゃ……』
――なるほど。それで私のところへ相談しに来たという訳か。
私は深く息を吐きながら一度頷いた。
本来ならここで本題へと移るべきなのだろうが……如何せん眩しい。私としても室内でサングラスを掛けっぱなしと言うのはどうもしっくりこない。
そこで私はちょっと別の話題を振る事にした――。
「ところで……九尾の狐と言えば人間に変身する事が出来るだろう? すまないが人間の姿になってもらえないだろうか? 正直君が眩しすぎてね……私としてもサングラスを外してちゃんと話がしたいのだが?」
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