曇り空と、東京タワー

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 東京タワーが好きだ。  真っ赤なタワーは、曇り空の下でも凜とした姿で私を迎えてくれる。  雨の日の展望台は人もまばらで、人混みに苛立つ事もなく一人でのんびりと半周を回った時、ひとりの男に目を止めた。  サラリーマンだろうか。皺の無いグレーのスーツ姿で手摺りにもたれかかり、じっと外を眺めている。  その横顔が、泣いているように見えたのだ。  通り過ぎてから思わず振り返ってしまった。振り返った自分の姿がガラス窓に反射して写り込み、景色を眺めていた男の視線と重なった。 (あ……)  気づいた男はゆっくりとこちらへ振り返り、白けた表情で私を見つめ返す。 「おい」  明らかに私に向かって言っているようだけれども、念のため辺りに人がいないかキョロキョロと視線を動かしてみる。人影はゼロ。  このリーマン、間違いなく私に話しかけている。 「こんな時間に堂々とサボりか、女子高生」  ドクン  少し掠れた低い声に、心臓が音をたてた。 「お、オジサンには関係ないでしょ」 「関係なくもない。その制服は俺の後輩だ」 「は……?」  だから何よといいかけ、言葉が止まる。  少し伸びた前髪をかきあげながら口角を引き上げて微笑む男を、マジマジと見つめた。  オジサンとかいっちゃったけど、見た目二十五、六のオニーサン。百六十センチの私が見上げる位の身長に、スリムで整った容姿。切れ長の瞳にシャープな顎のラインが凄く綺麗で……見惚れてしまった。 「お前、見惚れ方も堂々としてんな」  クッと喉を鳴らす音にハッと我に返ると、目の前の男は面白いものでも見つけたかのような表情で、ニヤニヤと私を見下ろしている。 「は、み、見惚れるわけないでしょ、オジサンなんてっ」  強気で返しても、男の表情は変わらない。  この男、今ぜったい私の事馬鹿にしてる。
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