焦り

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「―――アイツは、もっと昔からその“夢”を見ていたらしい。その的中率はほぼ百パーセント。そしてこの間アイツが視た夢の内容が、『高校の屋上で一年生の女子―――弥生が、誰かに追われた挙句の果て、転落死する』なんだと」  一通り話し終え、荻は疲れたように息を大きく吐き出した。  その横で弥生と鏑木は、徐々に顔色を悪くしていった。  そんな二人を見かねた吉嵩が、何の助けにもならないと解っていながらも少し高めのキーで明るめに話し始めた。 「あ、ちなみにオレも沢城の“予知夢”に助けられたんだ。アイツがいなかったら、オレは今頃寝たきりになってたか、車椅子生活だったかもなぁ」 「俺や吉嵩の時のように、稀に身近な人間の場合は辛うじて助かってるな。―――但し、カズマの“無茶”が必須ではあるが」  荻の小さな一言に、三人はやり切れない思いで俯いた。  それほど、“死”の未来を変えることは“予知夢”を視た当人に大きなリスクを伴うものだった。  食堂で話し合っていた四人を見つめる奇妙な視線を感じ、荻は勢いよく振り返る。  だが、其処には誰もおらず、わいわいと楽しく昼食を取る生徒達で溢れ返っていた。 「………」 「荻? どうかしたのか?」  今、確かに殺気にも似た視線を感じた気がしたんだが…―――。 「……いや、何でもない」  そのまま気のせいだと忘れようとした荻をよそに、その視線を放った人物は人混みに溶けるようにするりとその場から姿を消した。
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