聞こえない足音

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数時間前に会長たちと踏み入れた喫茶店の扉を開く。 「いらっしゃいまー……!?」 本日2度目の来店だからかどうかは知らないが、ウエイトレスは俺を見るなり驚いたようにカッと目を見開いた。 「お、お客様…お忘れ物でも?」 顔を赤らめながらチラチラと俺を見てくるウエイトレスに、俺は首を横に振る。 「いや………今回は、」 「その子はね、僕の連れなんだよ」 「っ、!!」 ウエイトレスの肩越しに、奴の姿。 俺の姿を確認してここまでやって来たのだろう。 「あ、そ……そうだったんですね!失礼致しました!」 ウエイトレスは真っ赤になってペコペコとお辞儀をすると、そそくさと去って行った。 「…………来てくれたんだ」 「行かないと、あんたが何をするか分かんないでしょう」 「何するか分かんないなんて……人聞きの悪い」 「…………それを何の感情も抱かずにできるのがあんたって人だろ…………柊」 男は俺の言葉を受けて、何かを見下すような嫌な笑みを浮かべた。 「やだなぁ…感情も抱かずなんて、誤解だよ。僕はちゃんと感情を抱いて行動する」 もちろん、君が好きだって感情だよ だなんて、綺麗すぎる笑顔で言われても俺は全く表情を動かさなかった。 ……否。動かせなかった。 「……さ、立ち話も何だし座ろうか」 「座って話すほど長時間いるつもりもない」 「…じゃあ、どうしてここに来たの?」 「…………」 数分前に届いたメール。 ”君が男2人といた喫茶店に、今いるよ。………一緒にお茶しよう” たったそれだけの内容。 だけど俺に対しては効果てきめんで。 過去の忌々しい記憶を呼び覚ますには十分だった。 拒否したい気持ちは山々だったが、俺は周りが傷つけられるのを恐れた。 だからこの場に来たのだ。 「………輝ちゃん。ね、奢るからお茶しよう」 強い力で手を引かれる。 やめろ…………触るな。 俺は手をはたき落とした。 「……何のつもり?」 「………」 その問いには無視して、柊が座っていたであろう席の向かい側に腰掛ける。 自主的に腰掛けたのに満足したのか、柊はクスリと笑った。 俺の前に座り、両手を絡ませてその上に顎を載せる。 「………輝ちゃん。僕がいなかった数年間、どうだった?」 「………最高だったよ。楽しかった」 「ふうん。何それ、妬けるね」 柊はマグカップを手に取り、コーヒーを口に含んだ。
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