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健の言葉に、私は彼の胸の中で小さく頷いた。
ごめんね……。もう、どこにも行かないから。
口に出しては言えなかったけれど、その大きな背中を包み込むように、強く抱きしめ返した。
そっか……。
私、健の愛情を直に感じているときは、こんなにも素直になれるんだ。
大好きな温もり。
包まれていると、自然と気持ちが落ち着いてくる。
さっきまで激しかった心臓の音も、今は健のと重なり合って、とても心地いいリズムを奏でている。
私の頬を優しく撫でながら、目の前にあるのは苦笑している彼の姿。
「姫希が、何をそんなに不安になっているのか分からないけどさ……もしそれが、俺の気持ちに関することだったら、要らん心配だから無用だ。」
要らない心配……。
私を掻き回していた不安は、そんな些細なひとことで簡単に消されてしまう。
最初から素直になって、健に本音を打ち明けていれば良かったと反省してしまう。
「……私ね、凄く幸せなの。」
「うん。」
「だから……それが、私の我儘で壊れてしまうのが怖かった……」
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