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夢幻界…
それは現実世界の裏側にあるとも、平行する時空の狭間にあるとも言われる。
簡単に言えばどこにあるか解らない、行くことなぞ万に一つも叶わない場所。
そこにいる人間は魔法のような力を使い、現実では成し得ないことを簡単に行う。
夢幻界の東に位置する山。
山の中腹に瓦屋根の一昔前の日本風な家が立っていた。
夢幻界は一つの大陸と大陸を取り囲むように存在する小島で形成されており、人間の殆どは中心の大陸に住んでいる。
畳の部屋で誰かが寝転がっている。
真っ青な浴衣と紺の袴に身を包む黒髪の女性だ。
「スゥ…」
どうやら昼寝をしているようだ。
「こら!神子徒先輩!!」
すると襖を開けて誰かが入ってきた。
巫女装束に身を包んだ茶髪ツインテールの女の子だ。
「零奈(レイナ)…」
「斬再(ザンザ)さんが呼んでますよ!」
神子徒(ミコト)は眠気眼を擦りながら体を起こした。
「相変わらず暇なら寝てるのか?」
零奈の横から白髪に緋のコートの男が顔を出した。
「…あら斬再、久しぶりね…」
「そうだな。」
神子徒と斬再は部屋に対面して座った。
「丸腰とは珍しいわね。」
斬再は普段二本の刀を携えている。
「ここに来るだけなら必要ないだろう?」
「まぁね。」
二人が話しているところに零奈がお茶を持ってきた。
お茶を二人の前に置くと自分は神子徒の横に座った。
「相変わらず仲いいな。」
「まぁ…ね。」
神子徒の腕をつかまえてニコニコしている零奈の隣で苦笑いする神子徒。
三人はお茶を少し飲んだ。
「…しかし、あれからもう一年経つのか。」
斬再が話を切り出した。
「そうね。この世界の危機に私らが問答無用で連れてこられてからね。」
神子徒が毒づくと斬再は少しばつの悪そうな顔をした。
だが単純にからかっているだけなのはわかっているので謝るとかはしない。
神子徒自身も謝ってほしいわけではない。
「冗談だってのわかってんでしょ?何でそんな困った顔するのよ?」
「こういう顔するのわかってて言うくせによく言うぜ…」
お互い嫌味を言い合うと少し笑った。
しばらく笑顔でいた二人だが斬再の顔から笑顔がいつの間にか消えていた。
そして遥か彼方を見るかのように遠くを見つめていた。
「…そっか…師匠が死んでから半年…」
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