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これはこの一ヶ月の間に 私、東 拓斗が経験したラブコメディー的出会いである。 その日、白昼の炎天下、 生暖かい風をきりながら両端垣根のアスファルトの上を駆ける青年―、即ち私は遅刻という時間との駆け引きに 無我夢中であった。 そうなると人間は愚かなものである、 周りが見えない、警戒だってしない。 垣根の曲がり角をごくごく当たり前、 普段の癖のようにそこを曲がった矢先、 物の見事にそこから現れた人物に勢いよく激突してしまう。 途端、黒く長い髪がバッと靡くのが見えた。 女性にぶつかってしまった。 私はそれを瞬間的に読み取ってから、 尻餅を着くまでの僅か数秒の間に やってしまったという一つの事柄を認識するのが精一杯であった。 そして、二人揃って尻餅を着く。 「痛っ!」 「痛い!」 ほぼ同じタイミングで ズレなく二人の声が合わさった。 痛みを感じる瞬間に眼をつむってしまうのは人間の癖だろうか、 私は尻餅をついてから眼を空けるまで、 僅かなタイムラグを得てぶつかってしまった人の顔を見た。 黒の長い髪、 整った可愛らしい顔立ちに 一部汗で透けて見える少しフリフリの気になる薄い水色のワンピースを纏った少女がそこに尻餅を着いた姿で座り込んでいた。 少しテンポが遅れて気づいたのは、 彼女の手から離れ左右の手元付近に転がった松葉杖。 「あー、」 自然と口から言葉が漏れ出す。 以前ペたりと座り込む少女は 顔を上げじっと私を見る。 よくあるアニメや映画ならば、 俗に言う運命の出会いだとか、 何かと良い方向に話が向くだろうが、 リアル世界でのこの状況はよろしくない。 直感的に私はそれを感じた。 流れる時間に痺れを切らしたのか、 座り込む少女はため息を着いた後、 続けて口を開いた。 「えっと…女の子をいつまで放っておくつもり? わい、足が悪いから一人で立てないんだけど。」 一見、清楚そうな感じに可愛らしい声での一人称の“わい”に少し呆気に取られつつも、 彼女の言葉に慌てて立ち上がり彼女に手を差し延べる。 自分の手に比べ、 細く小さな手をゆっくり引き上げると 一人で身体を支えられないのか、 彼女は私の身体にそのまま重心を預けてくる。
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